止まった時計が動き出す。
新緑の由布岳へ、再び。


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数年前、登山を始めたばかりの私は、山を歩くことが楽しくて仕方がありませんでした。 初めて登った1000m以上の山、それが由布岳でした。山頂に立ったときの達成感は、今でも覚えています。「次はどんな山が待っているんだろう」と自分の足がどこまでも歩いていけそうな気がしていました。

けれど、その後に乳がんの手術をすることになります。 リンパ浮腫を予防するため、生活にはたくさんの制限がつきました。「もうあの山へ戻ることはできないのかもしれない……」——そう思った瞬間の、目の前が暗くなるような気持ちは、今でも忘れられません。

2026年のゴールデンウィーク。私はこれまでの歩みを知ってくれている山友達と二人で、再び由布岳の頂を目指しました。これは、あの日から今日へと続く、歩みの軌跡です。

いよいよスタート、
心地よい山の風を感じながら

由布岳正面登山口の看板と由布岳

朝8時前に到着した登山口。無料の駐車場が満車なのは想定内でした。向かいにある有料駐車場に何とか車を置くことができ、一安心。ここは管理人が料金を徴収するシステムですが、いないときは入り口の料金箱にお金を入れる仕組みになっています。

登山口にトイレがあるのは本当に助かります。冬場は使用できませんが、代わりに簡易トイレを準備してくれている気遣いがありがたいですね。

お腹がすいていたので、出発前に塩豆大福をひとつ。この日は肌寒く、上着が必要な気候でした。羽織ったのは、パタゴニアの「R1エア・ジャケット(キッズ)」。軽くて通気性が良く、確かな暖かさをくれるお気に入りのフリースです。

一歩ずつ、
新緑のトンネルを抜けて

新緑の由布岳へ向かって歩き出す

準備を終えて、いざ出発。目の前に広がる壮大な景色を見た瞬間、「やっぱり私はこの場所が好きなんだ」という言葉が湧き上がってきました。初めて由布岳に挑戦する友人は「これを登るのか……」と、少し不安そうな様子。距離のわりに急登が続く山なので、その気持ちもよく分かります。

「ゆっくり、ゆっくり行こう」

石がゴロゴロと転がる滑りやすい登山道

おしゃべりをしながら、一歩一歩進んでいきました。足元は石がゴロゴロと転がり、砂っぽい地面も滑りやすいため、気を付けながら歩を進めます。

ピンクのツツジが咲く新緑の登山道

登る途中、ふと振り返ると、さっきまで見上げていた山々が眼下に広がっていました。自分の足で、こんなところまで登ってきたんだ——その実感が、次の一歩を少しだけ軽くしてくれます。青空の青に、ピンクの花(ツツジでしょうか)がとても綺麗に映えていました。

新緑の稜線で記念のひとコマ

お天気が良く、ゴールデンウィークということもあって山は多くの人で賑わっています。ペースを崩さず、足の速い方には道を譲りながら登っていきました。

ツツジ越しに広がる新緑の山並み前回12月に訪れたときの黄金色の由布岳

何より、新緑の美しさが素晴らしかったです。前回訪れた12月上旬は、写真のように一面が黄金色の景色で、それも美しかったのですが、瑞々しい緑の鮮やかさは、本当に清々しくて気持ちが良いものです。

風が吹き抜けるマタエ、
山頂で見つけた自身の成長

東峰と西峰の分岐点マタエの看板マタエの道標(西峰・東峰・豊後富士1584m)

ジグザグとしたつづら折りの山道をひたすら登ると、「マタエ」に到着します。ここは東峰と西峰の分かれ道。それまで木々に覆われていた道から一変し、ちょうど凹んでいる場所(コル)になっているため、風の通り道になっています。今回の山行ではそれほど風は強くありませんでしたが、前回はかなり風が強く、寒く感じたのを覚えています。

ここで、少し休憩を挟みました。山用のボトルに熱湯を入れて持参していたので、温かいお味噌汁を作りました。山の上で飲む一杯は、どうしてこんなにも美味しいのでしょう。風に吹かれながらすするお味噌汁の塩気が、登ってきた疲れをそっと溶かしていく感じ。友人もひと口飲んで「うわぁ、美味しい」と笑顔になってくれました。

東峰の岩場を登る登山者たち

一息ついたところで、私たちは東峰を目指して再び歩き出します。西峰のような絶壁の鎖場はありませんが、ここからは一歩一歩が大きな段差になる険しい登りです。ストックは使わず、手で岩を支えながら登った方がスムーズかもしれません。

ゆっくり進み、ついに山頂にたどり着きました。記念写真を撮ると、友人の顔に安堵の表情が浮かびます。

由布岳東峰 1580M の山頂標識

実は私、元々は高所恐怖症で、前回ここで写真を撮ったときはかなり怖かった記憶があります。しかし、今回は不思議とあまり怖さを感じませんでした。歩き方が上手くなったのか、高い場所でフラフラすることもなくなり、足元がどっしりしている。きっかけは思い当たらないけれど、経験を重ねるうちに、少しずつ「怖くない」に変わっていったのかもしれません。山は、知らないうちに私を強くしてくれているんですね。

由布岳東峰から望む由布院の街と山並み

山谷に響く「声」と、
気の緩みが生んだハプニング

景色を堪能し、下山に移ります。下りの方が足への負担が大きくなるため、より慎重に足元を選びます。

向かいにそびえる西峰

向かいの西峰から「ヤッホ〜」という声が響き渡り、こちら側の登山者の方々がそれに応えて返していきます。思わず叫びたくなるような最高の風景です。

下山途中に見下ろす由布院の街並み

帰りのルートは少し渋滞していました。下るにつれて、周りの山々が少しずつ目線の高さに近づいていきます。前回に比べて足取りも軽く、スイスイと順調に下山していましたが、そのとき、いきなり前方へ派手に転んでしまいました。

滑りやすい場所でお尻をついたことはありますが、これほど勢いよく前へ転んだのは初めてのことです。石が多い場所だったこともあり、とにかく激しい痛みが走りました。大きなザックを背負っている上に坂道だったため、なかなか自力で立ち上がれず、周りの方々にも心配をかけてしまいました。調子が良くて、ふと気を抜いてしまったのかもしれません。

打撲と擦り傷はできましたが、幸いにもすぐに歩き出すことができました。 焦る私を見て、友人が「ザックが甲羅のようで、まるで亀みたいだったよ!」と言ってくれたおかげで、最後は笑い話に変えることができました。ですが、一歩間違えれば骨折していてもおかしくない場所だったので、本当に気をつけなければいけないと身に染みました。

止まった時計が、
また新緑のように動き出す

小さなハプニングはありましたが、無事に登山口まで下山することができました。

新緑の由布岳へ向かって歩く二人

一時は諦めかけた由布岳の頂に、私はまた登ることができた。自分の足で一歩ずつ、急登を乗り越えて、またここに帰ってこられた。

その事実が、ただただ嬉しくて、ありがたくて。

一度は止まってしまった私の時計。それが、新緑の風に背中を押されながら、由布岳の頂で、確かにまた動き出した気がしました。

この山に戻ってこられた。それだけで、もう十分すぎる一日でした。

この日の相棒

ティートンブロス チル ハーフジップ シャツ

この日着ていたのは、ティートンブロスの「チル ハーフジップ シャツ」。寒いような、暑いような微妙な気温の一日でしたが、風がすーっと通り抜けてくれるので、歩いていてとても快適でした。

そして何より助けられたのが、下山中に派手に転んだとき。肘を強く打って「破けたかも……」と思ったのですが、見てみると生地は無事。見た目の軽やかさからは想像できないほど丈夫で、しっかりと肌を守ってくれました。

詳しい使用感やサイズ感は、レビュー記事でじっくり紹介しています。

コースタイム

YAMAPチェックポイント:由布岳東峰コース

これから由布岳を目指す方の山行が素晴らしいものになりますように…

それでは、また次の山で。山のイラスト